山車の概要
山車本体の構造は、関東地方で一般的な江戸型(川越・熊谷で見られるタイプ)ではなく、どちらかというと屋台型となっています。
■ 方向転換
車輪は4輪で、固定されており、車輪の角度を変えることはできません。方向転換は「とんぼ」と呼ばれる「かじ棒」の担当者が、力任せに豪快に行います。車輪が滑りやすくなるように地面に竹を敷いたり、竹でできた特製のゲタを履かせる町もあります。「せーの」の掛け声に合わせて、一気に山車を動かします。方向転換後、アスファルト舗装の地面には車輪で削られた跡が残ります。
下記で「方向転換の様子」をご覧頂けます。(YouTube)
http://youtu.be/Z45gLYtL9pk
また、緩やかなカーブや微妙に進行方向を修正する場合は、先導指示役の笛の合図をうけ、「せーの」の掛け声で「とんぼ」を押して山車の進行角度を調整します。車輪を滑りやすくするために、竹のへらを地面の舗装と車輪の間にタイミングよく差し込む工夫をする町もあります。(新一・新二・東一)
←への方向転換
竹製の下駄
■ ブレーキ
ブレーキ
鉄板のブレーキが両サイドについています。山車がスピードを上げて走り出し、ゴゴーーッとうなって止まる直前に、「カラン!」という金属音のそれが「鉄板ブレーキ」です。
地面と後輪の間に鉄板をいれ、後輪の回転を止め、山車を止めるものです。左右のタイミングが合わないと山車が曲がってしまったり、車輪と絡まり山車が動かなくなってしまう可能性もある為、ブレーキはかなり難しく重要な役職です。
休憩中や山車の組み替え中など、山車が停車している時に、安全対策としてもブレーキが設置されます。
■ とんぼ(かじ棒)
様々な「とんぼ」
「とんぼ」と呼ばれている舵棒がついています。この部材は、前後にスライドさせることができる構造となっています。
進行方向にスライドさせ、「とんぼ」の長さを長くすることで、より多くの人数が進行方向前面の「とんぼ」に張り付くことができ、また、進行方向背面の「とんぼ」は山車からの出っ張りが短くなるため、狭い交差点における方向転換がし易くなります。
この舵棒がスライドする機能は、久喜・清久の山車の最大の特徴で、全国の山車の中で唯一の機能となっています。
「とんぼ」をスライドさせることを、「とんぼをかえす」と言います。とんぼをかえす時は、安全確認の為、とんぼを上下に揺らして合図してからかえします。
「とんぼ」の基本形は、山車の前後方向に向かって据えられた2本の長手の棒に、それと直角に前後それぞれ1箇所に横棒が取り付けられている型となります。
各町の山車毎に、「とんぼ」の太さ、横棒の取り付け位置が異なります。
山車同士をぶつけることがある町の「とんぼ」は、比較的直径が太く、横棒が長手の棒の端部に取り付けられている傾向があります。太いことで、ぶつける衝撃に対して耐えることができ、横棒全体が最前面に近くなっていることから、山車同士をぶつけたときに、万が一長手の棒同士が当たらなくても横棒全体で受けらるようになり、比較的安全にぶつけられるようにしたものだと考えられます。
横棒が長手の棒の端部から山車本体側に取り付けられ、前後に長手の棒が突き出ている型もあります。長手の棒の端部に引手が張り付くことで、山車の重心からより遠くに力を加えることができるため、山車の方向転換がし易いようにしたものだと考えられます。
この機能は大きな山車が、狭い道路を効率よく巡行できるように、行き止まりや町境で容易に方向転換できるようにする為の工夫として開発されたものと思われます。
「とんぼ」の呼び名の由来については、真上から見た形が昆虫のトンボに似ていることからそのように呼ばれていると思われます。
下記で「とんぼをかえす様子」をご覧頂けます。(YouTube)
http://youtu.be/Lf3PJGbPvBY
■ 上部回転構造
山車は、上部と下部に別れており、上部だけを回転させることが出来ます。回転部の構造は、基本的には、心棒があって、その上に土台が乗っている構造です。令和4年まで使用していた新一の山車は、心棒ではなく、球状のものが取りつけられていました。これは、今の技術では作れない、かなりの職人技とのことです。球状にすることで、山車が傾いていても、スムーズに回転できるということです。
普段は上部と下部の間に、「くさび」が入れられ、回転できないようになっています。
下部は、前後左右対称となっているので、「とんぼ」を後ろにスライドさせ、上部を180度回転すれば、すぐに山車の前後が入れ替わります。
下記で「上部回転構造」と「とんぼのスライド」を活用し、山車の前後を入れ替える様子をご覧頂けます。(YouTube)
http://youtu.be/511QObJQpzc
回転構造
回転を固定する「くさび」
回転の中心(新一)
■ 舞台、楽屋
上部前(舞台)には、笛と鐘の人と囃子の控えの人がいます。新ニや本一では、オカメやヒョットコ等の踊りが披露されることもあります。上部後(楽屋)には「ツケ(小太鼓)」の2人と「タマ(大太鼓)」1人が主に乗ります。ツケは右側に並んで配置され、タマは左後ろに配置されるのが一般的です。
舞台
楽屋
■ 屋根
屋根の構造は、唐破風屋根となっています。
■ 装飾
どの山車も唐破風屋根は漆塗りとなっています。新一、新ニのように全身漆塗りの山車や、本一、上東のように白木造りの山車の2種類があります。金具の装飾が、所々に施されている山車もあります。
■ 収納
収納
ほとんどの町は、山車本体の姿で山車小屋に収納されます。本ニは、山車本体上部もバラして収納しているそうです。
人形山車
山車の屋根の上にやぐらを組み、その上に人形をとり付けたのが「人形山車」です。「大江戸の天下祭り(著者 作美陽一)」では屋根付一本柱型山車の発展型としてとりあげられています。
■ 人形
山車に飾られる人形は、神話や歴史に由来する人物となっています。大きさは、等身大よりやや大きめ。三世安本亀八(新一の日本武尊)、古川長延(本一の素盞鳴尊)といった、人形界では有名な人々によって製作されています。
日本武尊
素戔嗚尊
■ 台
人形の台の形は、基本的には長方形の1段ですが、仲町や上本のように2段式や、本一のような不思議な台もあります。
電線が低いところでは、人形を取り外し、台の上に寝かせて運行します。新二のみ、台のなかに人形が格納できる「迫り上げ」構造となっています。
新二の台
仲町の台
人形を寝かせての巡行
■ 彫刻
彫刻は、前鬼板、前懸魚、後鬼板、後懸魚、右柱隠し、左柱隠し、右脇障子、左脇障子の8つで、繊細で均整のとれたものとなっており、山車の華麗さを演出します。全ての彫刻が着脱可能となっており、提灯山車へ組み替える際に取り外します。
龍を題材としたものが多く、各町で造形の異なる彫刻となっています。詳細な作者は不明ですが、各町ごとに印象が異なるため、様々な彫刻師により制作されたものと思われます。
■ 日除けの幕
日除けの幕
日除けの幕が、山車前方に張られます。鮮やかな色彩の幕のため、山車を綺麗にする装飾の一つとなっています。近年まで清久地区では、幕を張る竹の先に、造花を付けて綺麗に飾りつけていました。
■ 幕
幕と腰幕
山車後部の楽屋に幕がつけられますが、暑いのでまくったままにしておくことが多いです。車輪の周りにも幕(腰幕)が張られます。
■ 曳き綱
曳き綱
30メートルくらいの引き綱が張られます。一般の方も、引っ張ることに参加できます! 休憩地点では、アイスなんかが貰えたりします。基本的に2本の綱があります。曲がる時など、綱にはさまれてしまうので、綱の外側から引くようにしましょう。
提灯山車(竹山車)
山車本体に木と竹でやぐらを組み、そこに提灯を付けたものが「提灯山車」です。基本的には、6本の柱を建込み、柱に梁をわたし、梁の先に提灯を取り付ける枠となる竹をとおし、それぞれの部材を縄で縛り組み立てます。
枠を構成するのが「竹」であるため、「竹山車」とも呼ばれています。
■ 提灯
各町内で異なりますが、1台の山車に取り付けられる提灯の数は400個以上あります。赤地に白丸抜きされた前後2面に各町の名称が記載されています。独特の文字で記載されており、一つづつ手造りしているため、一つとして同じ提灯はありません。大きさは、人の頭ぐらいで、水平方向直径30cm、垂直方向直径25cmの楕円体です。
■ 提灯の明かり
提燈とロウソク
提灯の明かりは、本物の「ロウソク」です。そのため、なんらかの拍子に提灯が燃えてしまう事もあります。1本で約4時間明かりを供給することができます。
■ 提灯の取り付け方法
提灯の取り付け方には、提灯の上下にそれぞれ1本づつ縛り紐がついている「2点留め型」と、提灯上部に2本・下部に1本縛り紐がついている「3点留め型」の2通りがあります。
新一・仲町・本一・東一・東・新田・本村が「2点留め型」で、個々の提灯が千差万別の方向を向くため、提灯の色々な表情がうかがえます。山車のわずかな振動でも、揺れたり、回転したりするため、それぞれの提灯が生きているかのように感じられます。
上下で1箇所づつだけで固定されているので、提灯自体が回転する余裕があるため、万が一、障害物に当たったりした場合、回転することで衝撃をいなして、提灯が破れることを回避できます。
新二・本二・本三が「3点留め型」で、個々の提灯の全てが、町名のかかれた面が表になっており、整然とした印象となる特徴があります。3点で固定しているため、提灯が揺れにくく、ロウソクの火が燃え移りにくいものとなっています。
2点留め(新一)
3点留め(新二)
■ 段数
15段組提灯山車(本一)
段数は各町で異なり、10段・11段・12段となっています。本一は、最大15段に組むことができます。
電線が低い地区でも山車の巡行ができるように、本一・新二・東一は、低い段数で組むことができます。
、
■ 現場組立式の構造
現場組立式構造
提灯山車は、骨組みから組み上げる「現場組立式」となっています。
久喜と同じく昼と夜とで姿を変化させる二本松・八尾・伏木・戸畑等の祭りでは、数個の提灯があらかじめ取り付けられた枠を山車に取り付ける「プレキャスト式」構造となっています。
人形山車から提灯山車への組み替えの主な作業手順は、人形・彫刻の取外し ⇒ 6本柱の建込 ⇒ 木の梁(ぬき板)の設置 ⇒ 竹の枠の設置 ⇒ 縄縛りによる竹枠の固定 ⇒ 提灯の取付 となり、約2時間かかります。
複雑な構造となっていますが、詳細な組み立て説明書のようなものは無く、組立て技術は祭り当日の組立作業をとおして先輩から後輩へ伝承しています。
下記で「人形山車から提灯山車へ組み替える様子(本三)」をご覧頂けます。(YouTube)
http://youtu.be/dsyn9enWYIw
■ 回転
回転構造
交差点や駅前広場の見せ場で、山車の上部だけを回転させるパフォーマンスを披露します。久喜の提灯祭りのみどころの一つ。
山車の四隅に引手が張り付き、勢いよく回転させます。四隅の竹を直接握って回す山車(新一・新二・仲町)と、四隅の竹に結ばれた縄を握って回す山車(本一・本二・本三・東一・東・新田・本村)があります。
また、回し方としては、「とんぼ」を片側に全部よせたうえで、引手が1人当たり3/4回転を担当する回し方(【新町型】新一・新二)と、「とんぼ」を山車の中間に移動させたうえで、引手が1人で全周回転させる回し方(【全周型】本一・本二・本三・仲町・東一・東・新田・本村)があります。前者は、引手が次々に交代するため長時間回転させることに向いています。後者は、4者で回す時間が長いため、一人当たりの回す力が軽減されます。
下記で「提灯山車を勢いよく回転させる様子(東一)」をご覧頂けます。(YouTube)
https://youtu.be/z4dmlrUvQAc
■ ぶつけ対策
ぶつけ対策
上清久地区、久喜地区の新一と新二は、提灯山車同士をぶつけ合います。ぶつかった衝撃で「とんぼ」がズレるのを防ぐために、特製ベルトや綱で、「とんぼ」を固定します。